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「かわいい」に癒される長澤蘆雪の世界

長澤芦雪作「狗児図扇面」 『長澤芦雪・かわいいを描く筆』(金子信久著、東京美術)より
長澤芦雪作「狗児図扇面」 『長澤芦雪・かわいいを描く筆』(金子信久著、東京美術)より

 

連休の頃、近場で出かけた美術展の感想です。

 

ある日新聞で、東京の府中市美術館で開催中の「長澤蘆雪展」(3月14日~5月10日)が大盛況という記事を見ました。

 

記事に掲載されていた絵の子犬たちの、なんとまあかわいらしいこと…!!

 

江戸時代に描かれたとは思えない、現代のイラストにも通じるほのぼのとしたタッチに一瞬で魅了され、

「この展覧会を観に行きたい!」と思いました。

 

というわけで、山田を誘って4月末、府中市美術館に出かけました。

 

府中まで車で約1時間です。

会場に着くと入場待ちの長い行列で、人気の高さがうかがえました。

 

長澤芦雪(ながさわろせつ、1754~1799年)は江戸時代中期の絵師で、

京都で活躍した円山応挙(まるやまおうきょ)の高弟です。

 

温雅で緻密な円山応挙の画風と一線を画し、大胆で斬新、自由奔放な画風で、

同時代に活躍した曽我蕭白、伊藤若冲とともに「奇想の画家」と呼ばれました。

 

伊藤若冲は近年メジャーになりましたが、長澤芦雪のことは今回初めて知りました。

(美術にくわしくないので… (-_-;)

 

 

さて、今回の長澤芦雪展のキーワードは『かわいい』です。

 

今までの日本画家で、「かわいい」と表現される作風は記憶にありません。

「かわいい」もの好きの現代の日本人にささったところが、今芦雪が注目された理由でしょうか。

 

芦雪の描く動物たち、特に子犬は「かわいい!」の極致です。

 

コロコロ、フワフワして、頼りなくて、だらけていて、

なんの不安もなく、ただ今を生きている子犬たちを観ているだけで癒されます。

 

日本では久しく「ゆるキャラ」が人気ですが、

芦雪の描く子犬たちもめちゃめちゃユルイです!(笑)

 

すわり方はダラケているし、押し合いへし合い、

渋滞しながら折り重なって戯れる姿は平和そのものです(『狗子遊図』)。

 

犬を飼ったことのある人なら、「こんな表情や仕草、あるある」と共感できることでしょう。

 

そして、芦雪は子どもを描いた絵もとても多いのです。

 

子どもたちひとりひとりの表情を個性豊かに描いていて、

ふっくらしたやわらかい頬の質感や、まつげや眉の1本ずつが繊細に描かれていることに驚かされます。

 

ほかにも、スズメなどさまざまな鳥を描いていますが、

鳥たちが感情をもってイキイキとおしゃべりしているように見えるのです。

 

これらの作品を観ていると、芦雪の小さきものや幼きものたち、

そして「生きとし生けるものたちへの慈しみのまなざし」が感じられます。

 

実は、芦雪は幼い子どもを4人も亡くしています。

わが子への想いが、無邪気に遊ぶ子どもたちの姿に投影されているのかもしれません。

 

 

芦雪の作品には禅宗の思想が色濃く反映されています。

 

彼は高齢になった応挙の代理として、和歌山県の寺に長期滞在した折、

障壁画など数多くの作品を残しています。

この時期に芦雪の才能が大きく開花したといわれます。

 

芦雪の傑作のひとつとされている作品が、

和歌山県串本町の無量寺(臨済宗)本堂襖絵の「龍虎図」です(重要文化財)。

龍と虎で一対の襖絵になっています。

 

龍の絵はそれなりに迫力がありますが、

虎のほうは「こわい、強い」というよりも、やはり“かわいい”のです。

 

大胆で遊び心があり、ふすまから飛び出してきそうな躍動感です。

まるで大きなやんちゃな猫のイメージです。

 

ちなみに「龍虎図」というのは、古代中国では龍は天を司り、虎は地を象徴するとされました。

龍と虎は大自然の脅威と勇猛さをあらわす存在であり、対で描かれることが多いのです。

仏教においては仏法の守り神とされます。

 

展覧会では大きな虎と老人や子どもが戯れるように重なって眠る絵が何点かありました(『四睡図』しすいず)。

 

「なんでわざわざ虎と寝るの?」とギモンに思ったのですが、

山田によれば、「虎と寝る」という禅のモチーフがあるそうです。

 

※四睡図とは禅画の一種で、

豊干(ぶかん)という唐代の禅僧と、その従者の寒山(かんざん)・拾得(じっとく)の3人と、虎がともに眠る姿を描いたものです。

豊干は禅の悟りの境地に達して、どう猛な虎すら御していたという逸話から来ています。

 

人も獣もわけへだてなく調和した、禅の悟りの境地・真理をあらわすということです。

虎は禅の世界では重要視されているそうです。

 

山田の話です。

 

「ゴータマ・ブッダのいくつかの前世の話の中に、虎に関係する説話として『捨身飼虎』があります。

 

ある国の王子だった前世のブッダはある時、飢えた母虎と7匹の子虎に出会いました。

王子は、『困窮している母子の虎にわが身を与えよう。

これは大いなる善行だ。これによって、生死の海を渡り超えよう』

と考えました。

 

そこで崖から身を投げて、自分の身を虎に与えて、母虎と7匹の子虎を飢えから救いました。

王子はその善行により、今世でブッダ(覚者)になりました、という話です。

 

ゴータマ・ブッダの『捨身飼虎』が、禅宗の悟りの境地にも投影されているようです」

 

 

多芸多才で自由奔放、型破りな表現者であり多くの独創的な作品を残した芦雪ですが、

その生涯はあまり円満なものではなかったようです。

 

わが子を4人も亡くしたり、師である円山応挙からは3度も破門されたとか、

悪評がたえず、46才で急死したのも他殺説など諸説があるということです。

 

スゴイ才能を発揮した芸術家の中には、人格的に破綻していたり、自滅的な生涯になる人たちがいます。

 

山田の話です。

「芦雪は四柱推命における“傷官星”のような人物ですね。

傷官星は金平糖(こんぺいとう)✷のような感じです。

 

凸の(尖った)ところでいろいろな能力・素質を発揮しますが、凹のところもあるわけです。

 

芸術家には、優れた芸術性はもっているけれど、プライベートは無茶苦茶という人のパターンの人もいますね。

(石川啄木、太宰治、ゴッホなどはそのパターンです)

 

特異な能力を発揮してエネルギーを吐き出すと、枯渇しやすいのです。

枯渇して自滅する人もいます。

 

自滅を防ぐためには、神仏への信仰を厚くすることで神仏からエネルギーをいただくことが必要です。

傷官星の人はそれを意識したほうがよいでしょう」

 

 

美術館の次に、近くの武蔵國総社・大国魂神社に向かいました。

 

すると、町内一帯にしめ縄が張り巡らされていて、

「何事か?」と思ったら、なんとその日は例大祭「くらやみ祭り」の初日でした、

 

駐車場が閉鎖されていたので、ちょっと残念でしたが、

大国魂神社の神さまに警蹕でごあいさつして、帰路につきました。

 

芦雪展で買った龍虎図の「虎」のアートポスター
芦雪展で買った龍虎図の「虎」のアートポスター